【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
あぁ、気が進まない。この王宮の中の居心地は非常に良くなったけれど、僕は外の世界のことはあまり知らないのだ。僕が七歳の頃までに出会った貴族の息子たちとは、今はもうプライベートでの繋がりはない。向こうも僕のことを気味悪がっていたから、尚更だ。
僕の憂鬱なため息に、ヴァイオレットはくすっと笑う。
「ふふ。大丈夫ですよ、アーサー様が何かなさらなければならないことは何もありませんし。ただ椅子に座っていらっしゃるだけでよろしいんでしょう?」
「宰相の言葉なんて信じられないよ。あの人、普段は適当なことしか言わないんだから」
「それは確かに……そうですね」
ヴァイオレットは僕の言葉に、困ったように微笑んだ。その表情に、僕は思い直す。
こんなことで暗くなっているようじゃ、ヴァイオレットには好きになってもらえないぞ、と。
「でも、うん、大丈夫。もう僕も十二だしね。パーティーの一つや二つ軽々こなしてみせるよ」
そう言って僕が笑えば、彼女は心から頬笑んでくれる。
「その意気ですよ、アーサー様」
その声はまるで陽だまりの中でさえずり歌う小鳥のようで、僕にとっては何よりも心地いい声。
――あぁ、僕は今、とても幸せだよ。
窓から春風が花の香りを運んでくる。
それはまるで僕らの未来を祝福するかのように。僕らの幸せな将来を、予感させるように。
だから僕は想像もしていなかったんだ。この日を境に、僕の幸せな日々はいとも簡単に崩れ去ってしまうのだということを……。