【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

 瞬間、僕に向かって叫ぶ彼。
 それと同時に、僕の意思とは関係なしに右目に宿る確かな熱。熱く(うず)く僕の右目。
 それは紫のレンズ越しでなかったら、血のように赤い呪われた色――。

「――っ!?」

 気付いたときには、僕は身体の主導権を無くしていた。何が起きたのか理解できないでいる僕の意識を置き去りにして、もう一人の僕が、僕の身体を支配していた。

『君はしばらく引っ込んでろ!』

 彼は短く吐き捨てて、その少年と睨み合う。
 目を逸らせ、と僕に言ったはずの彼は、考えを変えたのか、少年の心を覗こうと、右目の力を最大限にして少年へとぶつける。――だが、それは叶わなかった。

 その少年は彼の視線を物ともせずに、ニヤリと薄く笑うだけ……。

『――な』

 同時に、僕の全身に駆け巡る衝撃。それは僕のものではなく、彼の心の動揺だった。――その強い感情に引っ張られ、全身からぶわっと冷や汗が噴き出す。

 それは恐怖か、畏怖か――あるいは……。

『あの男……やっぱり……!』

 僕の意識そのものを侵食しかねないほどの強い感情。

 それは完全なる憎悪だった。言うなれば同族嫌悪……それに近い感情だと、僕は理解した。

 同時に僕は悟らざるを得ない。今、いったい何が起きたのかを……。

 そう、あの少年は弾き返したのだ。彼の――つまり、僕の力を。
 普通の人間ならばあり得ない。心を読まれていることにだって気付くはずがない。
 それなのに、あの少年はこの力に気付いたどころか、それを無効にしたのだ。

 つまりそれは、彼が僕らと同族であることを意味していて……。

『……アーサー……あいつは……』

 今まで一度だって、少なくとも僕の知る限り心を乱したことのない彼が、ここまで心を乱されている……その理由は、明白で……。

『あの男は……いったい……何者だ?』
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