【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

 僕が答えられないことを知りながら、それでも僕に尋ねる彼。
 あの少年を憎み、恐れ……立ち竦む僕の分身。

 けれど僕は何もできなかった。そんな彼の姿を、ただ黙って見ていることしかできなかった。こんな彼の表情は一度だって見たことがないと、酷く冷静な頭で考えながら。


 気が付けば、その少年はいなくなっていた。まるで最初からどこにも存在していなかったかのように、何の痕跡もなく消えていた。

「……追いかける?」

 他に何も思い浮かばず、苦し紛れに問いかける。
 しかし、返ってきたのは彼らしくない消極的な答え。

『……いや、いい』

 彼は苦々しげに、先ほどまで少年がいたはずの場所を見つめている。

『気付いたろう? あいつ、僕らと同じだよ。僕らの力が効かなかった。それに、あの殺気』
「…………」
『……多分、僕らを憎んでる』
「そんな。どうして……」
『僕が知るわけないだろ。――でも、確かだ』

 いつの間にか僕の心の奥に引っ込んでいた彼の声は、心なしか震えているように思える。

『いいか、アーサー。金輪際、あの男には近づくな。きっと良くないことになる』
「――え、それって……」

 いったいどういう意味? そう聞き返そうとして、僕は口を(つぐ)んだ。僕の中から、彼の気配が消えていたのだ。

 もう眠ってしまったのだろうか。それとも、さっき力を弾き返されたときの反動か何かだろうか?
 そんなことを考えるが、僕にわかるはずもなく――。


 ――春風が僕の頬を撫でていく。それは本来、心地よいはずのそよ風……。

 けれど今はその風が何か不吉なことを運んでくるものに思えて、僕の心を酷く不安な気持ちにさせた。
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