【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

「はははははっ! 冗談だよ! 真面目に悩むなよ!」
「……冗談?」
「そ、冗談。むしろ俺は喜んでるんだ。君に頼みごとをされるなんて初めてだからさ。それに、人には言いたくないことの一つや二つ、誰にでもあるってもんだ」
「ヘンリー……」

 なんだ。冗談だったのか……。

 ヘンリーのいつもどおりの態度に、僕は心底安堵する。

「――で、君の尋ね人。黒目黒髪の、俺と同じくらいの歳の男、だっけ?」 
「そう、先週のパーティーにいたんだけど、心当たりない?」

 僕は改めて尋ねる。
 すると、彼は平然と答えた。

「きっとそれ、ルイスのことだろうな」
「――え?」

 その何でもなさそうな口調に、僕は驚きを隠せない。

「えっ。君はそのルイスって人と知り合いなの?」
「いいや? 顔を知ってるってだけ。話したことはない」
「……そう、なんだ」
「あのなぁ、アーサー。社交界は君が思っている以上に狭いんだ。先週のパーティーに招待されたってことは歳が近いわけだし、むしろ知らない方がまずいんじゃないのかって思うけど――。まぁ、王子の君に言うことじゃないか」
「いや、いいよ。僕にそんなこと言ってくれるの、君くらいだから……」
「そうか? でも、怒るところはちゃんと怒ってくれよ? 君の謙虚なところは美徳だと思ってるけど、度が過ぎると舐められるからな」
「……う、うん。気を付けるよ」

 これじゃあまるで立場が逆みたいだ。そんな風に思いながら、僕は話を戻す。

「それで、そのルイスって人のことなんだけど……どこの家の人なのかな」
「どこの家っていうか、彼自身は貴族じゃないけどな」
「え? 貴族じゃないの?」
「君、パーティーでの彼の服装、ちゃんと見なかったな? 明らかにお仕着せだっただろ」
「……う」

 確かにあの時は、彼の(いろ)ばかりが気になってデザインまでは気にしていなかったけど……。
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