【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
瞬間、僕は言葉を失った。想像もしていなかった、その内容に。
彼女が婚約? ――馬鹿な。ヴァイオレットが? そんな、嘘だよ、あり得ない。だって僕は彼女から、一言だってそんなこと聞かされていない。後任の話だって出ていないのに。
そもそも彼女に恋人がいただなんて――だって彼女は僕の侍女だぞ? ずっと僕と一緒にいたじゃないか。別の男と会う時間なんて……そんな時間……少しだってなかったじゃないか。
「その様子だと、本当に知らなかったんだな……」
「……っ」
ヘンリーの横顔に嘘はなくて、僕はいてもたってもいられなくなる。
「僕、ヴァイオレットに聞いてくる」
僕はソファから立ち上がり、今にも走り出そうとした。
けれどヘンリーに止められる。彼は僕の腕を掴み、決して放そうとしない。
「――ッ、はな、せよ……!」
僕はヘンリーを睨みつけた。
けれど彼は放すどころか、更に力を強めてくる。痛みに僕が呻いても、力は決して緩まらなかった。
「――彼女には、何も聞くな」
低く重い、僕の知らないヘンリーの声。いつもの陽気な彼からは想像もできない、暗い表情――。
けれど、今の僕にはそんなことを気にしている余裕が少しもなかった。僕は、彼の手を振りほどこうとする。
でもそれは叶わなかった。ヘンリーの力は強くて、とても――強くて。何年経ったって、僕はヘンリーには敵わない。