【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
「はな……せよッ、この手を放せ!」
だってあり得ないじゃないか。ヴァイオレットが婚約だなんて、絶対に許せるわけないじゃないか。
「どうして……放してくれないんだよっ」
溢れ出す涙を止められず、でもそんな情けない顔を彼に見られたくなくて、僕は俯いた。
するとそんな僕を諭すように語りかける、ヘンリーの怖いほど冷静な声。
「俺……前に君に話しただろう? 彼女は養女だって。厄介払いでここに入れられたって」
もちろん、その話なら覚えている。僕はそれを聞いて、彼女の境遇を調べたのだ。
すると彼女の養家が思った以上にあくどい商売に手を出していることが判明した。僕が手を出さずとも、遅かれ早かれ潰されるだろうということも。
だから僕は、そのときが来たら彼女を然るべき家の養子として引き取ってもらう手筈を整えるつもりでいたのだ。――それなのに。
「ヘンリー。つまり君は、この婚約もそれと同じだって言いたいの……?」
僕が震える声で尋ねると、彼は無言で肯定する。
「彼女……売られたも同然なんだよ。パークス家は彼女に持参金を持たせるどころか、相手側から莫大な金を受け取っているんだ。でもそれ自体を咎めることはできないし、周りが口を出せることじゃない。わかるだろう?」
「なら、僕が彼女を金で買えばいいってことか? その男より金を積めばいいって、そういうこと!?」
「なっ――それは違うだろ! 確かに彼女のことは可哀そうだと思うが、それは彼女の家の問題で、君に口出しはできないと言ってるんだ」
「口出しできない!? 彼女は僕の侍女だ! そんなこと言わせない! 彼女が望まない婚約ならなおさらだ!」
「ああ、そうだな、確かにそうだ。俺だって同じ気持ちだよ。でも彼女はただの侍女なんだ。家柄だって君とは釣り合わない。彼女は君と違ってそのことをよく理解してるよ。君は彼女を助けたい一心でそんなことを言うんだろうが、俺にはわかる。彼女に今の言葉を伝えたら、彼女はきっと今すぐにでもここを出ていくだろうな……!」
「……っ」
諫めるようなヘンリーの強い口調。その真剣な眼差しに、再び涙が溢れ出す。