【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
私はひとしきりウィリアムの寝顔を眺めてから、部屋の中を見回した。
どういうわけか、この部屋――ウィリアムの寝室には何もない。越してきたばかりの頃の私の部屋以上にシンプルで、あるのは最低限の家具と本棚くらい。趣味のものと思われるものなど、本当に何一つないのだ。
私はずっと、そんなこの部屋に大きな違和感を覚えていた。
いつだったか遠い昔、どこかの誰かが言っていた。〝部屋を見れば、その主の人となりがわかる〟と。部屋は家主の心の様を反映しているから、と。
だとするなら、この必要最低限のものしかないウィリアムの部屋はいったい何だというのだろう。彼の心はこの部屋のように、何もないとでもいうのだろうか。
そしてそれが、彼が今まで一人も恋人を作らなかったことと関係があるのだろうか。
私は、まだ眠ったままのウィリアムの髪に手を伸ばす。
千年前の彼と全く同じ、栗色の柔らかい髪や均整の取れた顔立ち。それに、私の名前を呼ぶ懐かしい声――そのどれもが、私の心を縛り付けて離さない。
愛しくて、愛しくて、もう二度と彼から離れたくないと……本心ではそう思ってしまう。
でも、私はちゃんと理解しているのだ。この幸せは束の間のものだって。遠からず手放さなければならないものだって。
だからせめてそれまでは、こうやって彼の寝顔を眺めていたい。
彼が私を心から愛してくれるまで、どれだけの時間がかかろうと、私はこの人の側にいる。
今まで叶わなかった分まで、私は彼に愛を注ぐ……。
――ああ、それってとても幸福なことだわ。こうして何にも引け目を感じず、誰の目も気にせず、彼を愛し彼の側にいられるなんて本当に嬉しい――。
ウィリアムが眠っているのをいいことに、私は何度も繰り返し彼の頭を撫でた。
千年前に死に別れたエリオット――そのときの彼は十六歳だったから、今のウィリアムよりずいぶん年下だ。
けれど、記憶の中のエリオットの寝顔と今のウィリアムの寝顔は驚くほど変わらなくて。少しも変わらなくて。
こんなこと言ったら怒られてしまうかもしれないけど、無防備で可愛い、なんて思ってしまう。頬が緩むのを止められない。