【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
私はウィリアムに微笑みかける。恥ずかしがっている暇など無いから。そんな時間があるならば、少しでも彼に愛を伝えたいから。
けれど彼は私の笑顔に応えることなく、何かを誤魔化すように目を細めた。
――あぁ、まただ。
最近の彼は時々こんな顔をする。何かを隠すように、騙すように。
その真意はわからない。でも多分、それが理由なのだろうなと思う。
彼が今まで誰一人愛したことがないという理由。あの日の夜会で、彼が私を愛することはないと誓った、その理由なのだろうなと。
ルイスはその理由を知っているのだろう。
けれど彼は私に教えなかった。それはつまり、私が知る必要のない事だということで。
だから私は詮索しない。本音を言えば知りたいけれど、ウィリアムを傷つけることになってしまってはいけないから。世の中には、知らないままでいた方が良いこともあるのだ。
「……ああ、そろそろ朝食の時間だな」
ウィリアムは壁の掛け時計に目をやると、ベッドから降りて私の方を振り向いた。
そこにあるのは、いつもの美しい笑みで……きっと本人も気付いていないであろうその作り笑顔に、私の心を切なさが襲った。
けれどそれでも……それでもいい。私のウィリアムへの愛は、決して変わることはない。
私は彼の手に引かれベッドから降りる。
彼の手のひらから伝わる、私より少し高い彼の体温。それはあの頃と少しも変わらず心地よくて、私の心をときめかせる。
――愛しているわ、ウィリアム。
私は、ウィリアムに微笑みかける。
声の出せない私には、それだけが唯一できることだから。今の私にたった一つだけ許された、彼への愛の言葉なのだから。
私はただ夢に見る。ウィリアムの愛をこの手に掴むその時を。
彼の愛に包まれる、その瞬間だけを――。