【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

2.オペラの誘い


 ウィリアムの部屋を出た私は、着替えのため自室へ向かった。

 私が侯爵夫妻に与えられた部屋は客室を改装した部屋で、ウィリアムの部屋とは階こそ同じ二階だが、反対側に位置している。その為、部屋に戻るには中央階段を横切る必要があるのだが、丁度その階段の前を通り過ぎようとしたとき、下階から上がってきたルイスと鉢合わせした。

「おはようございます、アメリア様。今日はいつもより少しお早いですね」

 彼は私に気が付くと、柔らかに微笑む。
 二ヵ月前の契約の際の彼とは別人であるかのような穏やかな表情だ。

 実際、ルイスは私がこの屋敷に来てから二月(ふたつき)が経った今日まで、一度たりともあの日の話をすることはなかった。〝ウィリアムを愛し、愛されよ〟と言われたあの日以降、ウィリアムの呪いについても、アーサー様や私たちの持つ不思議な力についてさえ、何一つ言及することはなかった。

 加えて、私を威圧したり監視したり、探るようなこともない。むしろ、どういうわけか、彼は私に紳士的に接してくれるのだ。それはまるで、古い友人同士のごとく親しげに……。
 もちろん、侯爵夫妻や使用人の前では必要以上に私に近づくことはないけれど、人目のないときの彼はいつだって穏やかで、優しくて……。

 それに、ウィリアムも私とルイスの距離が縮まるのを歓迎している様子である。それもあって、気付けば私は彼に気を許してしまっていた。と言ってもあくまで、敵意や警戒心を持たなくなった――程度ではあるのだが……。


「ちょうどお会いできて良かった。カーラ様からお手紙が届いておりますよ。今度は何のお誘いでしょうかね」

 そう言って、ルイスは右手の上の銀盆(サルヴァ)の封筒の束から一通の封筒を抜き取る。その可愛らしい桃色の封筒は、確かにカーラ様からの手紙に違いなかった。

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