【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
――ときは二ヵ月前に遡る。
川に落ちた私がアルデバランから王都へ戻り、右手の傷も癒えかけていたある日のこと。エドワードとブライアンに連れられ、カーラ様が私の元を訪れた。
そのときの彼女の顔色といったら、見ているこちらが辛くなるほど酷いものだった。
ろくに眠れていないのか目の下にはくっきりとしたクマが浮かび、瞳は痛々しいほどに充血している。肌は青白く、まるで川に落ちたのは私ではなく彼女であるかのような憔悴ぶりだった。
そんな彼女は今にも泣きだしそうな顔で、私をまっすぐに見てこう言った。
「本当にごめんなさい。助けてくださって、ありがとう」――と。
私は驚いた。
まさか彼女に謝られるなどとは思っていなかった私は、彼女のその痛々しい姿に……まっすぐなその心根に、自分の浅はかさを思い知らされた。
なぜなら私はその瞬間まで、彼女のことをすっかり忘れていたのだから。彼女が〝自分を庇って川に落ちた私のことを気にかけないはずがない〟という至極当然のことに、少しも思い至らなかったのだから。
――ああ、どうして気付かなかったのかしら。
右手の傷も、声が出なくなったことも、彼女には何の非もない。それなのに、彼女はこんなにも罪悪感を抱いてしまっている。それは間違いなく、この私の責任だ。
――ごめんなさい、カーラ様。
私は彼女を抱きしめた。
声を出せない代わりに、彼女を精一杯に抱きしめた。
それは自責の念から取った行動だったけれど、私に責められると思っていただろう彼女にとっては予想外だったのだろう。彼女は安堵したように、私の腕の中で声を上げて泣いた。
そしてその翌日から、彼女は暇さえあれば私の元を訪れるようになった。最初は花を、次の日は果物を、また次の日は有名なパティシエのお菓子を持って。
――どうやら私は彼女に懐かれてしまったらしい。
そう気付いたときには、私も彼女のことを妹のように可愛く思うようになっていた。
今ではお互いに刺繍を施したハンカチを交換し合うほどの仲である。
「お茶会、ピアノ、ダンスにサロン……今回はいったい何でしょうね」
ルイスは穏やかな顔で指折り数えると、「では後ほど」と言い残し、ウィリアムの部屋の方へと歩いていった。