【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉


「お嬢様、お待たせしました。今日の茶葉は……って、その封筒、カーラ様からですか?」

 テーブルにお茶の用意をしていたハンナは、私の持つ封筒に気付いて手を止める。
 この桃色の封筒を見慣れているのはハンナも同じである。

 彼女はお茶の用意を中断し、棚から取り出したペーパーナイフを私の方へ差し出した。

「今度は何のお誘いでしょう! 早く開けてくださいませ!」

 ハンナに急かされ、中を開く。

 それはオペラの誘いだった。――横から中を覗いていたハンナの顔が、一瞬にして輝く。

「オペラですか⁉ しかも演目は『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』! 切ない恋の物語……もちろん参加のお返事をなさいますよね⁉」

 彼女のその眼差しは、まるで自分が観に行くとでもいうように熱を帯びている。
 その勢いに気おされ、頷きかけた私だったが――手紙の終盤に書かれた内容に、悩むことになった。
 何を悩むって、手紙には「ウィリアム様も是非ご一緒に」と書かれていたのだ。

 エドワードとブライアン、そして私とウィリアム含め――五人で観劇しましょう、と。

 ――彼が承諾するかしら……。

 オペラ以前に、ウィリアムはここのところずっと忙しそうなのだ。

 私がここに来て二ヵ月が経ったが、彼と二人きりで過ごした時間は数えるほど。朝食と夕食と就寝前には必ず顔を合わせるが、あとはもっぱら社交くらいなもので、プライベートで出掛けたことは一度だってないのである。それくらい、彼は執務や社会奉仕活動に追われている。

 ――エドワードとブライアンはいつも暇そうだけど、あの二人は跡取りじゃないから比べられないわよね。現にあちらの長男のクリス様もほとんどお見掛けしないし……ウィリアムが駄目だったら、私だけ参加することにしよう。
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