【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

3.朝食――ダイニングにて


「――オペラ?」

 シミ一つない真っ白なクロスの敷かれたテーブルで――アメリアとの朝食を終えたウィリアムは、ハンナの言葉にわずかばかり眉をひそめた。

 ここはプライベート用のダイニングルームである。三十畳ほどの余裕のある空間の中央には六人用のテーブルと椅子、天井には少し小ぶりのシャンデリアが三つ。壁には夫人の趣味である風景画が何枚も飾られ、窓から降り注ぐ朝の陽気に部屋全体が輝いているようだ。

「……そうか。オペラか……」

 ダイニングにいるのは、ウィリアムとアメリア、そして給仕役のルイスとハンナの四人だけ。普段は侯爵夫妻も共に食事を取るが、今日は一足先に保養地へと出発して不在である。

 それに合わせて使用人のほぼ全員が交代で休暇を取ることになっていて、今日は普段の給仕がいない。そういうわけで、たった今この場にいるのは彼ら四人だけだった。

「ええ、オペラでございます」

 アメリアの口代わりになっているハンナが、顔一杯に笑みを浮かべる。

「今朝カーラ様からお誘いのお手紙が届きまして。エドワード様とブライアン様もご一緒とのこと」
「……そうか」

 ウィリアムは少しの間沈黙した。そして紅茶を一口飲んで、こう尋ねた。

「日時と演目は?」
「三日後の夜八時。演目は椿姫(ラ・トラヴィアータ)でございます」
「三日後? ずいぶん急だな……」

 その表情はお世辞にも嬉しそうと言えるものではない。おそらく、観劇はあまり好まないのだろう。
 そう悟ったアメリアの表情が、無意識のうちに陰る。


 この二ヵ月、ウィリアムはアメリアに対し十分すぎるほど優しく接していた。二人だけの外出はなくとも、屋敷内では二人きりの時間を取ることを大切にしていた。それは誰から見ても疑いようのない事実である。

 けれどそうであっても、ウィリアムは自分のことをほとんど話さなかった。学生時代のエピソードは話しても、好みや思想については決して口にしない。

 アメリアはそれが意図的であろうことに気付いていた。そしてそのことを、内心寂しく思っていた。
< 43 / 121 >

この作品をシェア

pagetop