【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
ハンナはそんな――憂えた表情の主人を不憫に思う。と同時に、こんなときこそ侍女である自分の腕の見せ所だと考えた。
「あら、いいではありませんか。このところずっとお忙しくなさっていらっしゃいましたし、たまには息抜きされてはいかがでしょう? ルイスもそう思いますわよね?」
ハンナはルイスに微笑みかける。
――この二ヵ月、ルイスはアメリアとウィリアムの仲を積極的に取り持つ姿勢を見せていた。だからハンナは、ルイスは賛同するだろうと考えたのだ。
結果、ハンナの読みは当たっていた。
ルイスは一瞬驚いたように瞼を震わせたが、次の瞬間にはニコリと笑みを張り付ける。
「そうですね、良いと思います。その時間帯は予定もありませんし、仕事のことは忘れて外出されたらよろしいかと」
「…………」
ルイスの圧のある声音――そしてその笑顔に、ウィリアムはようやく気が付いた。
対面に座るアメリアのどことなく寂しそうな表情は、自分のこの態度が原因なのだ、と。
「ああ、すまない。違うんだ、アメリア。君と出掛けたくないとか、決してそういうことではないんだ。ただ……以前オペラを観に行った際、開始直後に眠り込んでしまったことがあってだな……周りから白い目で見られたことを思い出したんだ」
よほど苦い経験だったのか、ウィリアムは気まずそうに視線を泳がせる。
「あれ以来観劇は避けていたのだが……いい機会だ。カーラに参加の返事をしておいてもらえるか? ――恥ずかしい記憶を君との思い出で上書きするというのも、悪くないしな」
「……!」
最後に付け足された言葉に、アメリアは目を丸くする。
まさか彼がこんな恥ずかしい台詞を言うなんて……そう思った瞬間、ぶわっと顔が熱くなる。それが演技だとわかっていても、身体が火照るのを止められない。