【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
ルイスは朝食の後、ハンナから「先に着替えておいてほしい。すぐに出掛けられるように」と言われていたのだ。そのときは嫌に乗り気だな、と思っただけで終わってしまったが、あの言葉はアメリアらを尾行するためのものだった。
そうと気付いていれば、こんな面倒事に付き合わされずとも済んだかもしれないのに――。
「……やはり私は遠慮しようかと……やり残した仕事があることを思い出しまして……」
「あら、可笑しなことを仰いますのね! あなたの仕事の速さは屋敷一! 帰ってからでも十分間に合いますからご心配なさらず! なんなら私もお手伝いしますから!」
「…………」
ハンナはルイスの腕を掴んだまま通りに立つと、右手を上げて辻馬車を止める。
そんな彼女の姿に、ルイスは逃げられないことを悟った。
「さあ、行きますわよ、ルイス!」
――なんと手際のよいことだろうか。これは尾行し慣れているな。
ルイスは内心ため息をつく。――と同時に心から安堵した。ハンナに好意を持たれていたわけではなかったことに。
ルイスは馬車に乗り込むハンナの背中を見つめ、考える。
あの主人にこの侍女あり、と。お互い主人には苦労させられてきたというわけか、と。
「さぁ、早く乗って!」
ルイスの目の前に差し出されるハンナの右手。
普通は男女逆だろうと思いつつも、その手を無言で掴むルイス。
「さ! 前の黒い馬車を追ってくださいまし!」
こうしてハンナのその言葉を合図に、二人の尾行劇が幕を開けたのだった。