【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
それは当然ルイスが仕向けた結果であり、彼自身が望んだことに違いなかった。
けれどだからこそ、今の彼女を見ていると心が痛むのもまた事実だった。
愛する者と離れなければならないことをわかっていながらも笑顔を見せるアメリアの健気さに、多少の罪悪感を覚えてしまうのは仕方のないことだった。
「……ハンナ、あなたにお尋ねしたいのですが」
ふと、ルイスが問いかける。
するとハンナは、視線は店の外に向けたまま声だけで答える。
「はい、何でしょうか?」
「アメリア様に仕えて、今年で何年になりますか」
「突然なんですか? 十年ですけど」
「ではその間に、あの方があのような顔をされたことは?」
「あのような? あの、幸せそうなお顔をってことですか?」
「ええ」
「そうですね……多分、ありません。でもどうしてそんなことを?」
ハンナが問い返すと、ルイスは淡々と答える。
「あの表情が本心から来るものなのか、演技なのか気になりまして。あなたになら判断がつくものかと」
「…………」
すると、ハンナは不思議そうな顔をする。
「意味がわかりませんわ。確かにあれほどの笑顔は初めてですが、お嬢様は昔からずっとお優しくて、お可愛らしい方でございます。あの笑顔が本心だろうと演技だろうと、お嬢様であることに変わりありません。私には、その事実だけで十分でございます」
ハンナはいつもより大人びた笑みを浮かべ、さらに続ける。
「でも、私はあの笑顔は本心である方に、一生分の給金を賭けてもよろしいですわ!」
その瞳には何の迷いも疑いもない。つまり、彼女は心からアメリアを慕い、信頼しているということだろう。
けれどルイスは知っている。アメリアは、ここを去る覚悟をとっくに決めていることを。アメリアにとってウィリアム以外の存在は、簡単に捨て去ってしまえるものであることを――。