【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
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「もう昼か」
宝飾店を出たウィリアムは、天高く昇った太陽に目を細めた。
思ったより長居してしまっていたようだ。だが、それに見合う収穫はあった。
ウィリアムは先ほど購入した、真っ青に輝くペンダントを思い出す。
――まさかこんなところでロイヤルブルーサファイアを入手できるとは思わなかった。通常のサファイヤよりもずっと深い、紫みのある鮮やかなブルー。アメリアの瞳と同じ色。
あれならばアメリアの輝きにも勝るとも劣らない。
ウィリアムはアメリアがペンダントを着けている姿を想像し、思わず顔を緩ませる。
――それは彼にとって初めての感情だった。
ウィリアムは今まで数えきれないほどの女性と接してきた。――いや、正しくは相手せざるを得ない状況にさせられてきただけであるが――一度だってこんな気持ちを抱いたことはない。
アメリア以上に美しい女性は何人もいたし、幾度となく好意を向けられてきたけれど、それを嬉しく思ったことは一度もないのだ。ましてやその相手にプレゼントをしたいなどという感情は、欠片も感じたことがなかった。
だが今のウィリアムの中には確かにそういう感情が芽生えている。といっても当の本人は、自分自身のそんな変化に少しも気が付いていないのだが……。
「そろそろ昼食にしよう。確かこの先に……」
ウィリアムは言いかけて、足を止めた。――否、止めざるを得なかった。
なぜなら、今の今まで隣にいたはずのアメリアの姿が忽然と消えていたのだから。
「――ッ」
ウィリアムの顔が青ざめる。
彼は背後を振り返り、すぐにアメリアの姿を探した。けれど彼女の姿はどこにもない。
「アメリア、どこだ……⁉」
ウィリアムはアメリアの名前を叫ぶ。
けれど当然、声を出せないアメリアから返事があるはずもなく――周囲からウィリアムに注がれるのは、立ち止まったまま動かない彼への、怪訝な視線のみ。
「……いったいどこに」
ウィリアムの胸に広がる焦燥感。
その言葉にし難い強い不安に、彼はようやく気が付いた。
この二ヵ月の間に、自らがアメリアにすっかり心を許してしまっていたことに。――と同時に、彼女の本質を忘れてしまっていたことに。