【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
侯爵邸に来てからのアメリアは、文字どおり全ての時間をウィリアムのために費やした。
侯爵家の次期夫人としてふさわしい女性であると周りに示すべく、侯爵夫人から家や使用人の管理の仕方について学び、ウィリアムが夜会に出席するときはよきパートナーとして出席した。
以前なら絶対に応じなかったお茶会の招待状にも、でき得る限り出席し他家との交流を深めた。
それは以前のアメリアからは考えられない行動だったが、そんな生活が二ヵ月も続いたものだから、ウィリアムは完全に油断してしまっていたのだ。
本来の彼女は、夜会を抜け出しパブを訪れるような自由奔放な性格だったということを。ルイスから聞かされたアメリアは、男物の鞍にまたがり野山を駆けるような豪胆な性格だったということを――。
「――くそッ」
何というざまだ。
守ると約束しておきながら、こんなに簡単に彼女を見失ってしまうなど。
これではルイスに顔向けできない。これでもし、彼女の身に危険が及んだら……。
「……っ」
けれどウィリアムは、その不安を振り払うかのように大きく頭を振った。
そして周囲を観察しながら、元来た方へ引き返す。どんな些細な出来事も見逃すまいと、周りの景色を注視しながら。
そうだ――アメリアのことだ。きっと何か理由があったに決まっている。
こんな街中で急に人が消えるなどあり得ないし、そもそもここはセントラル通り。人攫いなどあるわけない。
ということは、彼女は自らの意思でいなくなったと考えるのが妥当。
つまり店を出てから今までのほんの短い間に、彼女の気を引く何かが起こったということだ。
ウィリアムはそう確信し、周囲をよく観察する。――そして、気が付いた。
「――あれは……」
道路を挟んだ反対側で、身なりのいい男が何やら叫んでいる。馬車の音でよく聞こえないが、スリだ! 誰か掴まえろ! ――そう言っているようだ。
「……スリ……無関係か? ――いや」
男の周辺にアメリアの姿はなかったが、もしかしたら何か関係があるかもしれない。
そう考えたウィリアムは、急ぎその男の元へと向かった。