【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉


「おいおい、そんな顔するなって。俺の方が二つも年上なんだから、負けたら示しがつかないだろう?」

 僕がヘンリーを見つめていると、彼は僕が負けて悔しがっていると思ったようだ。
 でも違う。確かに負けたことは悔しいけれど……そうじゃない。

「違うよ、ヘンリー」
「じゃあなんだ?」

 ヘンリーのまっすぐな眼差し。その透明な色に、僕は答えかねる。
 するとそのとき、頭上から太く低い声が降ってきた。

「さあさあ坊ちゃま方、このような場所で話し込まれるのはやめにして、日陰で休憩されてはいかがかな。万一この日差しにやられて倒れられでもしたら、私の首が飛ばされてしまう」
「コンラッド……いつの間に」

 どこもかしこも角ばった獅子のごとく巨大な身体。黒く焼けた肌に、引き締まった筋肉。彼はこの国の騎士団長、コンラッド・オルセンである。 

 彼はその焼けた顔に笑みを浮かべ、僕らを見下ろしていた。それはとても……気迫のある笑みであった。
 けれどヘンリーは全くひるまない。それどころか彼は、コンラッドを白い目で見上げる。

「坊ちゃまはやめろって言ってるだろ。それに俺たちはこんなことで倒れるほど軟弱じゃない。そうだろ? アーサー」

 ヘンリーは僕に同意を求める。けれど僕は思わず視線を逸らしてしまった。だって僕は、身体を動かすのはあまり得意ではないから。

 そんな僕の様子を見て、コンラッドは「がっはっは!」と豪快な笑い声を上げる。

「坊ちゃまは坊ちゃまでしょう! それにお二人にあまり強くなられると、我ら騎士の役目が無くなり困るというものだ。さぁさぁ、今日はこれで本当に(しま)いです。私も仕事が残っていますのでな」

 言いながら、僕らの背中をバシバシと叩くコンラッドの分厚い手のひら。本人は軽く叩いているつもりだろうが、彼に叩かれると次の日まで赤い痕が消えないほどの痛みを伴う。
 その痛みと彼の気迫に、さすがのヘンリーも従わざるを得ない。

 僕たちは剣をコンラッドに手渡し、テラスへと向かった。
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