【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
――あぁ、人違いならいいのに。あの子でなければいいのに。それなら私はもう、これ以上あなたを追いかけたりしないのに。
ねぇ、お願いだからこっちを向いて。その足をほんの少しでいいから止めてちょうだい。お願いよ、ほんの一瞬でいいの。ただ一度だけでいいから振り向いて。
――お願い、少しでいいから、あなたの顔を私に見せて……!
「――ん、だよッ、お前!」
刹那――私の願いが通じたのか、その少年が不意にこちらを振り向いた。それはちらりと、ほんの一瞬。
でもそれで十分だった。それだけで事足りた。
だって、私がその顔を見間違えることなどあり得ないのだから。
それはまた、目の前のこの子も同じだろう。
「――ッ⁉」
こちらを一瞬振り向いた少年、ニックは、私の顔を見るなり大きく目を見開いた。
まるで幽霊でも見ているかのような顔をして、その場に立ち止まる。
「ミ……リア……?」
茫然とした様子で彼が呟いた名は、とても懐かしい響き。
――あぁ、やっぱり間違いない。ニックだ。やはりニックだったのだ。私のことをミリアと呼ぶ人間は、この子しかいないのだから……。
「……っ」
私の心に込み上げる懐かしさと切なさ――そして、悔しさ。
その感情に急かされて、私は無意識のうちに手を伸ばす。――けれど。
「触んなッ!」
パシッと音を立て、振り払われる私の手。同時にこちらを睨みつける、彼の瞳。
「――っ」
ああ、最後に会ってから二年か、それ以上か――。幼かった顔立ちははっきりとし、ガリガリに痩せこけていた身体はまるで別人のように引き締まっている。きっとあの頃と違い、食事をきちんと取れているのだろう。身長なんて、とっくに私を追い越して――。
けれど、あの頃の優しげな瞳は――表情の乏しい中にも見せていた彼の柔らかさは――今の彼からは少しも感じられなかった。
彼の瞳に揺れるのは、憎しみと怒り……ただ、それだけ。