【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉


「今さら、何の用だよ」


 その声に込められた、私に対する明らかな憎悪。隠すつもりもないと言うように、彼ははっきりとした敵意を露わにする。

「俺に、いったい何の用だって聞いてんだ!」
「……ッ」

 その鋭く細められた瞳に、私は悟らざるを得ない。
 彼をこんな風にしてしまったのは、私だと。

 思い返せば、彼との別れは決していいものではなかった。

 あの頃の私は、ただウィリアムの目に留まらないようにと、それだけしか頭になくて。自分の悪評が社交界に広まると同時に、屋敷に引きこもることを選んだのだ。

 だから――そう、最後にニックに会ったあの日、私は彼にこう言ってしまった。
「遊びは今日で終わりなの」――と。

 私のことなど忘れてくれればいいと思った。貴族の戯れだったのだと、憎んでくれればいいと思った。せめてもの償いのつもりで渡した金品も、彼を一層みじめにさせるものだとわかっていた。――でも、あのときの私にはそうするしかなかったのだ。
 

「はっ、何だよその顔。俺を憐れんでるの? 何でこんなことしてるんだって、説教でもしに来たわけ?」
「……っ」

 かつては穏やかで暖かい色を灯していた彼の赤褐色の瞳――それが今では沼に沈んだように、どんよりと暗く濁っている。その瞳が、彼の過ごしてきた過酷な日々を、私に嫌というほど知らしめる。

「忘れたとは言わせねェよ。最初に声をかけてきたのはあんたの方だ。なのにあんたはあっさり俺を捨てた。そりゃそうだよな。ただのお遊びだったんだから。それを今さら――何しに来たんだよ」
「…………」
「ま、なんでもいいけどな。もしあんたがこんな俺を不憫に思ってくれるってんなら、昔のよしみで俺に金を恵んでくれないかな。一生分とは言わねェよ。一ヵ月でも、なんなら一週間分でもいい。あんたになら、安いもんだろ?」
「…………」

 そう言ったニックの口元は、どこか自嘲気味に歪んでいた。

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