【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

 ――ああ、今の言葉はきっと彼の本音ではない。彼は私に、本当に金銭を要求しているわけではない。彼はただ私を責めているのだ。いかに自分が落ちるところまで落ちたのか、私に知らしめたいのだ。

 ――ごめんなさい、ニック……。

 言い訳するつもりはない。弁明の余地などない。
 今の私にできるのは、ニックの気持ちを受け止めることだけ。目を逸らさずに、彼の言葉を受け止めるだけ。

「――ん、だよ。何か言えよ! あんた、何のために俺を追いかけてきたんだよ! こんな場所まで……ッ!」
「…………」
「あの頃みたいに俺を飼い慣らそうとでも思った? 今さら自分の思いどおりに動く駒が恋しくなったのか? なら、残念だったな。あの頃の俺はどこにもいない。あんたの知ってるニックは死んだ。――だから、悪く思うなよ」

 そう言ったニックの視線が、私の背後へと向けられる。それが意味するものは――即ち。

「――ッ!」

 私は背後から忍び寄る気配を感じ取り、とっさに身をかがめた。すると次の瞬間、頭上を掠める何か。

 私はその正体を確かめようと後ろを振り返る。けれどそれより早く、私の首に太い腕が絡みつく。――同時に首筋に添えられる冷たい感触。

 それは短刀だった。

「――ッ」

 無理に動けば怪我では済まない――そう悟った私に、男の声が降りかかる。

「――おい、ニック。つけられてんじゃねェよ。この女、知り合いか?」

 その声は低く、重く――目の前のニックの肩が、ビクリと震えた。

「……知り合いっていうか……昔ちょっと世話になってたことがあるってだけで……」
「お前を世話? 物好きな女だな。――どこの店のモンだ」
「あ……、その人は娼婦じゃありません。貴族ですよ」
「はぁ? 貴族だぁ?」
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