【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
首筋に添えられた冷たい感触。それが私の頭を酷く冷静にする。
――そうよ、こんな男に私の心は揺らがない。こんな男に辱められたりしない。
だって私は決めたのだから。この先どんな壁が立ちはだかろうと、決してそこから目を逸らさないって。――だから。
男の長い舌が、耳障りな水音を立てて私の首筋を這っていく。ねっとりと、絡みつくような舌使いで――何度も何度も、執拗に嘗め回す。
――ああ、気持ちが悪い。でも……それだけだ。
私は今この男に恐怖を感じていない。だから……耐えられる。
首筋に添えられたナイフを持つ男の右手が、少しずつ下へとおりていく。最初は胸へ、そして腹へ……そして、腰へ。
私が抵抗しないことにすっかり油断したのだろうか。それとも、声を出せない女にナイフなど必要ないと、そう判断したのだろうか。とうとう男はナイフをしまい、私の背中を外壁にぐいと押し付ける。
そこでやっと――私は男の顔を直視した。
年齢は三十から四十代ほど。大きな体に浅黒い肌。目つきは明らかにカタギのものではないが、髪や服は意外にも小ぎれいだ。裏稼業でそれなりの稼ぎがある――ということだろうか。
私が男を観察していると、それに気付いたのか、男の方も私の顔を興味深そうに眺め――ニヤリと嗤った。
「ニックを飼ってたってのは嘘じゃねェようだな。貴族の嬢ちゃんにしては良い目をしてる。――が、悪ィな。顔を見られたからには、ただで帰すわけにはいかねェんだ」
男はそう言って、私のドレスの裾を太ももまでたくし上げた。武骨な腕が――その太い指先が、私の肌に触れる。
「ハッ、本当に抵抗なしか! ちったァ反応してくれねェと、つまらねェんだがな」