【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
私を見下ろし嘲る男。――けれどそれとは反対に、私の視線の先のニックの瞳が大きく揺らいだ。
私の下半身をまさぐる男の手を凝視したニックの頬が引きつり、こちらから目を逸らす。
私はそんな彼の表情に、確信した。
まだ彼はここにいる。あの頃のニックは、まだ消えていない、と。――ならば、私がやるべきことはただ一つ。
私は、男に気付かれないように、右手を自身の後頭部へと伸ばす。私の肌に吸い付く男を哀れに思いながら、先の尖った髪飾りを一本抜き取り、男の背中に勢いよく突き刺した。
「――ぐぁッ!」
突然の反撃に男が呻く。同時に拘束が解かれ、私は男の腕から抜け出した。
けれど今の一撃はただの子供騙しだ。致命傷にはなり得ない。だから、ここでニックをこの男から取り返すためには、手段は一つしかない。
男の腕から逃れた私はそのまま強く地面を蹴る。そして今度はニックに両手を伸ばし、彼を固い地面へと突き飛ばした。
「――う、わッ!」
押された勢いで倒れたニックは、地面に頭と背中を打ち付ける。彼の顔が痛みに歪んだ。
それでも彼は、私から視線を逸らさなかった。
それは彼の必死の抵抗のようで……私はとても切なくなった。
でも私はもう逃げない。これは自分の撒いた種、回収するのも自分自身。だから私は、あなたをあの男から必ず奪い返す。どんな手を使っても。
私は痛みで動けないニックの身体に跨がり、心の中で謝罪する。
――ごめんね、ちょっと痛いけど、我慢して。
私は再び後頭部に手を伸ばす。そこにあるのは、先ほど男の背に突き刺したのと同じ、銀の髪飾り。その先端は、まるでアイスピックのように鋭く、煌めく。
「――ま、待てッ!」
刹那、背後で男が叫ぶ。それはニックを庇うかのようだ。
けれどもう遅い。私の腕は既に振り上げられている。後はこのまま、突き刺すだけ。
「……ッ」
ニックの顔が恐怖に歪んだ。――殺される、と。絶望に染まる彼の瞳。
それでも私の決意は揺らがない。
私は振り上げたその手を、ニックの太ももに向けて一気に振り下ろした。
「――ッ!」
ニックは、声にならない悲鳴を上げる。痛みに顔を引きつらせて、目に涙を一杯に溜めて。
――ごめんね、ニック、痛いよね。でも大丈夫。ちゃんと責任は取るから。