【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
私は心の中でそう告げる。
するとニックはとても驚いたように目を見開いて――すぐに気を失った。
――ああ、あとは男だけ……。
「――んの、女……ッ!」
私が振り向くと同時に、再び男が襲い来る。私の首を締め上げて、本気で私を殺しにかかる。
けれどそれでも私は焦らなかった。――どうしてかって? そんなの、決まっているじゃない。
「……くっそ……、てめェ……毒、仕込んでやがったのか……」
――苦しげに歪む男の表情。私はその顔を見上げ、肯定の意を込め微笑んだ。
髪飾りに塗ってある毒は決して死に至るほど強い効果はなく、成人男性の体を一時間動けなくする程度の代物。
けれど、男にはそんなことはわかるまい。
「――なんて……女だ……」
男は気を失ったニックが死んだと思ったのか、私を睨みつけた。その瞳に、ありったけの殺意を込めて。
けれど男の腕の力は、殺意とは裏腹に確実に弱まっている。毒が効いているのだろう。そろそろ全身が痺れてくる頃合いだ。
――だがどういうわけだろう。男は私の首から腕を放さない。毒は回っているはずなのに、腕の力の弱まりが、そこで止まったのだ。
それどころか、一度弱まってきたはずの力が再び強くなっているようにも思える。
――どうして……?
毒が全身に回っているのは確実だ。この毒は過去世で何度も使用してきた。量を間違えるはずがない。なのにどうしてこの男は手を放さないのか。なぜこんなにも力が強いのか。
ニックのことは捨て置いて、さっさと医者にでも駆け込めばいいものを……なぜいまだここに留まり続けるのか。それほどまでにニックに執着しているとでもいうのか。仲間であるニックを置いていけないと……そんな慈悲の心が、この男にあるとでもいうのか。