【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

「……っ」

 ――ぎりぎりと首を絞めつけられる息苦しさに、私の思考が停滞する。酸欠状態の私の脳は、まるで(もや)がかかったようにぼんやりとして……。

 ――早く、放しなさいよ……!

 私が男を睨みつけると、男は途端に嘲笑う。

「……はッ。――いい顔してんぜ、嬢ちゃん。そろそろ限界だろ?」
「――ッ」

 にやりと嗤う男の唇。それは確実に、私が意識を保てなくなる時を悟っていた。

「――っ」

 ――ああ、まさかそんなことがあり得るのか。私の毒が、効いていない……?

「信じられねェって顔だな。いいか、俺たちみたいな奴は毒に慣れてんだ。これぐらいで手引いたりしねェんだよ」
「……っ」

 ――違う。私が言いたいのは、その毒はこの国には存在しないものだということ。つまり、この毒に耐性があるなんて、あり得ないということで……。
 この男が、たまたま毒に強い体質だったということなのか。……ああ、なんて悪運の強い。

「~~っ」

 ――私の呼吸が、ついに限界を迎える。
 男の腕の力はこれ以上弱まらない。私の首から――離れない。

 視界が霞《かす》む。思考が闇に沈んでいく。

 それはとても懐かしい感覚。頭がぼんやりとして、身体がどこか宙に浮いて、どこへでも飛んでいってしまえそうな――。


 あぁ……私、死ぬのかしら。また……一から繰り返すのかしら……。エリオットの影を……追いかけ……て……。


「はッ。良い顔だ。さっさと眠っちまいな」
「…………」


 ああ……なんて、愚かな……。死ぬのなんて……こっちは、とっくに……慣れてるの……。ただ……やっと……あの人……と……。なの、に……馬鹿、ね……私……。


 暗転、する。――視界も、意識も……。

 そうして……私の意識は、そこで途切れた。

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