【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
テラスでは侍女たちが飲み物を用意して待っていた。
僕らがテーブルに着くと同時に、冷えたグラスが渡される。
グラスにたっぷりと注がれたレモンスカッシュからは、細かい泡がしゅわしゅわと湧き出てきていた。
――あぁ、冷たい。ひんやりして気持ちいい。
僕たちは一瞬目を合わせると、それを味わいもせずに、一気に口へと流し込んだ。喉の渇きが一瞬にして潤っていく。
「あぁ――美味いな」
「うん、おいしいね」
どうやら僕らは相当喉が渇いていたらしい。
侍女たちは、あっという間に空になった僕らのグラスを見て、二杯目を用意してくれる。
ヘンリーはそれを受け取ると、すぐに口をつけた。彼の喉が、ごくりごくりと気持ちのいい音を鳴らす。
僕はその音を耳の奥で聴きながら、訓練場の向こう側の広い庭園を見渡した。
ここは変わった。三年前のあの日から。彼の声が聞こえるようになった、あの時から。
普段は決して表に出てこないもう一人の自分。彼は僕の心が限界に達するときにだけ表に出てくる。僕の代わりに皆の望む言葉を囁き、そして同時に、切り捨てるのだ。
そうして気が付けば、いつの間にかこの城の中から負の感情は消えていた。僕を悪く言う者は、ここからいなくなっていた。
僕の右目は相変わらず赤いまま。けれど周りの心の声は、僕が聞こうと思わない限り聞こえることは無くなった。だから最近は比較的平穏に……心穏やかに過ごすことができている。
「――あ、そうだ、アーサー」
唐突に、ヘンリーが声を上げる。
「父上が君に会いたがっていたよ。君の意見が聞きたいんだって」
「伯父上が?」
その名に、僕はつい顔をしかめてしまう。