【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

3.足止め


「そこを退け、コンラッド!」

 遡ること二十分前。

 ウィリアムはアメリアを見失った付近で、財布をすられた男性を見つけていた。

 ほどなくしてそこに現れたハンナの証言から、アメリアがスリの少年を追ったと断定――警備隊への通報はハンナに任せ、自らはアメリアの後を追おうとした。

 けれどそのとき、どこからともなく現れた五人の騎士に、行く手を阻まれたのである。


「いったい何の真似だ。どうやら見知った顔ばかりのようだが」


 ウィリアムは彼らのことをよく知っていた。
 真ん中の一人――コンラッドは言わずもがな、残りの四人はアーサーの護衛騎士である。それがいったいどうしてこんな場所に……?

 五人の中央の男――コンラッド・オルセン。彼は二年前まで王家直属の騎士団の団長を務めていた。彼はもともと平民だったが、軍に入って十年で騎士団長へと上り詰め、それから二十五年もの間団長を務めた。

 ここエターニアではしばらく戦争は起きていないが、和平協定を結んでいる諸国への援軍として数々の功績を残し、〝不敗のコンラッド〟とあだ名された男。

 だが、そんな彼も年齢による身体の衰えには勝てず、二年前に五十を迎えたのを機に、騎士団を引退したのである。

 ――そんな彼が、どうしてアーサーの護衛を率いている? なぜ俺の邪魔をする?


「説明しろ、コンラッド。なぜお前がここにいる? こんな街中を武装してうろつくなどと……市民を怯えさせて楽しいか?」


 この国にコンラッドの名を知らぬ者はいない。年齢を重ねようとその威厳は健在だ。

 屈強な戦士という体躯の彼は、存在そのものが威圧感の塊であり周りの者を怯えさせる。

 現に、街の人々はコンラッドに恐れをなして、逃げるように距離を取る。
 そんな人々と同じく、ウィリアムの後ろに立つハンナもまた、顔を真っ青にして立ち尽くしていた。

 けれどウィリアムだけは違った。

「まさか、これはアーサーの命令か?」――そう問いかけて、コンラッドを睨みつける。

 ――アーサーの近衛騎士を動かせるのはアーサーのみだ。
 近衛騎士は国軍所属の騎士とは違い、国ではなく主人に忠誠を誓う。つまり、国王たりともアーサーの近衛騎士を動かすことはできない。

 だが、たとえこれがアーサーの指示だったとして、いったいその理由がなんなのか、なぜ騎士団を引退したコンラッドまでもがこの場にいるのか、ウィリアムにはわからなかった。
< 70 / 121 >

この作品をシェア

pagetop