【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
ウィリアムの心に沸き上がる明確な怒り。それは彼自身、久しく感じていない感情だった。
そしてその感情の正体に、ウィリアムは酷く困惑した。なぜ自分はこれほど心を乱しているのだろうか。そう思わずにはいられなかった。
――まさか俺が、彼女に情を抱いている……?
それはウィリアムにとって、決して抱いてはいけない感情だった。それにその感情は、アメリアと結んだ契約以前に――それよりもずっと昔に――捨てたはずの感情だった。
「……っ」
だからウィリアムは、どうにか気持ちを押し留めようとする。
気付かなかったふりをして、なかったことにしようと――自身の心に言い聞かせる。
――すると、そのときだった。
「団長!」
道の向こうから、若い下っ端団員が駆けてきた。
団員は息を切らせながら、「問題が発生しました」とコンラッドに叫んでいる。
「俺はもう団長ではない。――で、問題とは? まさか見失ったと言うんじゃないだろうな」
「――ひっ……、あ……そ、その……実は、仰るとおりで……」
「…………」
「も、申し訳ありません! 道が入り組んでいるうえ、追跡対象の足が……想定以上に早く……。それに……」
「何だ、まだあるのか」
コンラッドは忌々しげに舌打ちする。
すると団員は再び悲鳴を上げ、どうにか言葉を絞り出した。
「そ……その……マ、マクリーンが……」
「マクリーン? あいつがどうした」
「気付いたら持ち場におらず……つまり、職務放棄かと……」
「ハッ! 戦場でもあるまいにこんな街中で職務放棄だと? 最近の若い奴はどうなってる」
コンラッドの声が、怒りを通り越して呆れかえる。
一方、そのやり取りを聞いたウィリアムは、ライオネルのことを思い出していた。
――マクリーンとはライオネルのことか? 確か彼には兄もいたはずだが……今、ここに彼がいるのは偶然か? ――いや、今はそんなことよりも……。
ウィリアムはコンラッドの様子をうかがう。
コンラッドは団員と地図を開き、アメリアを見失った場所を確認しているようだった。アーサーの護衛騎士たちも、今はそちらに気を取られている。
――ああ、今ならばここを抜け出せるかもしれない……。
そう考えたウィリアムは、一歩、二歩と後退り、隙を見てその場から駆け出した。