【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
4.ルイスの秘密と交わした契約
ウィリアムはどうにか追手を撒き、路地裏を駆け抜けていた。
彼には入り組んだ路地の道などわからなかった。けれど、いつだったか双子とこの辺りを通ったときに教えられたことを思い出していた。
「この先には入るなよ。浮浪者のたまり場があるからな。お前みたいなのはいいカモにされるぞ」――と。
つまり、スリの子供はその一味ということだ。アメリアはきっとそこに向かったはず。
だがその情報だけでアメリアを見つけ出すのは難しいということも、彼はよく理解していた。
それでもウィリアムは走り続ける。それはなぜか。――勝算があったからだ。
ウィリアムは確信していた。ルイスは必ずアメリアを見つけ出す、と。
二ヵ月前、アメリアが湖に落ちたときもそうだった。
ルイスは川岸でアメリアの痕跡を見つけ、情報を持ち帰った。アメリアがライオネルの屋敷にいることを突き止めたこともそうだ。
つまり、アメリアを探したければルイスを見つけ出せばいい……否、ルイスに自分を見つけてもらえさえすればいいのである。
物陰に隠れ兵士をやり過ごしながら、ウィリアムは心の中で繰り返しルイスの名を呼んだ。
――ルイス。俺はここにいる。聞こえたら合図を寄こせ……!
ウィリアムにはルイスの声は聞こえない。ルイスの居場所もわからない。
けれど、ルイスはウィリアムの居場所を知ることができた。ウィリアムが許しさえすれば、ルイスはウィリアムの心の内を読み取ることができた。
それはあくまで一方通行のものだったが、ウィリアムが呼べばルイスは必ずそれに答える。ウィリアムに困ったことが起きたら、ルイスがすぐさま助けに入る。
二人はこれまでずっとそうやって生きてきた。
それが、二人がかつて結んだ契約のうちの一つだった。