【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
その声が届いたのか、しばらくすると、ウィリアムの視界の先を白い鳥が横切った。――それはべネスだった。
――ルイスはそっちか……!
ウィリアムは再び走り出す。べネスの後を追い、ルイスの元へとひた走る。
するとほどなくして、路地裏からルイスが姿を現し、手招きする。
ウィリアムは路地に滑り込み、そして真っ先に問いかけた。
「――ルイス! アメリアは⁉ 無事なんだろうな⁉」
だがルイスはすぐに答えずに、顔の前で人差し指を立てる。
「お静かに」
「……っ」
「アメリア様はご無事ですから、ご安心を」
「そうか。なら……よかった」
ルイスの声は、いつもと変わらず淡々としている。表情にも、何の感情も映っていないように見えた。
けれど、確かに感じる微かな違和感。その正体を確かめようと、ウィリアムはルイスの顔を覗き込む。
「……なあ、ルイス。お前、何か変じゃないか?」
そうして気が付いた。
苦しげに肩を上下させるルイスの横顔に――額から汗を垂らし、何かに耐えるように唇を結ぶ、ルイスの青白い顔に――。
それはいまだかつて見たことがないほど体調が悪そうな、ルイスの姿……。
「お前、怪我をしたのか⁉」
ウィリアムは狼狽える。
だが、ルイスはゆっくりと首を横に振った。
「怪我はしておりません。ただ、少し力を使いすぎただけのこと」
「使いすぎた? アメリアの居場所を探るのにか? だが、今までは一度だってそんなことなかったじゃないか」
「確かに仰るとおりですが、この力にも制限があるのです。まぁ、少しタイミングが悪かったと申しますか……」
「……お前」
何かを隠したがっているように、口角を上げるルイス。
その苦しげな横顔に、ウィリアムの表情が罪悪感でいっぱいになる。
「……すまなかった。俺がちゃんと彼女を引き留めていれば、お前に負担をかけることはなかったのに」
「あなたが謝るなんて珍しいですね。ですが、謝罪は不要。あなたは十分すぎるほどよくやっている。それはこの僕が保証しますよ。――それに、約束したでしょう? 僕があなたをお守りする、と。そのためならこの程度のこと、なんでもありませんよ」
「……ルイス」
「とにかく、今は急ぎましょう。どういうわけか先ほどからやたら騎士や兵士がうろついていますし……何やら嫌な予感がします」
「そのことなんだが、どうやらあの騎士らはアーサーの指示らしい。俺がアメリアを追おうとしたら、コンラッドに阻まれたんだ。……隙を見て逃げ出してきたが」
「アーサー様の指示?」
ルイスの眉がピクリと震える。
その意味深な横顔に、ウィリアムはごくりと唾をのみ込んだ。