【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
5.ライオネルとの再会
「――アメリア! 返事をして、アメリ!!」
そこに男はいなかった。いや、逃げられたと言うのが正しいか。
先ほどまでアメリアの首を絞めていた男は、騎士団の青いサーコートを羽織ったライオネルが現れたことに気が付くと、一目散に逃げだした。
一方ライオネルも、気を失って倒れているアメリアに気を取られ男を追うことができなかった。
「アメリア、アメリア! ――くそッ、どうして彼女がこんな……」
ライオネルの腕の中には、青白い顔で浅い呼吸を繰り返すアメリアの姿がある。
呼びかけにも返答はなく、頬には一筋の白い涙の痕――そして首には、痛々しい赤い痣。
いったい彼女はどれほど恐ろしい思いをしたのだろう。想像に難くない。
そう思ったライオネルは、アメリアを腕に抱いたまま悔しげに顔を歪めた。
――それにしても、彼女の呼吸は浅すぎる。このままでは……。
「ごめんね、アメリア」
ライオネルはアメリアの耳元で囁いて、ドレスの背中の留め具に手を伸ばした。
呼吸を少しでも楽にしてやろうと、留め具を外すとスリーブを二の腕まではだけさせる。そしてきつく締められたコルセットの紐を解き、緩めた。
するとそれが功を奏したか、アメリアの頬に赤味が戻る。
「……もう大丈夫だよ、アメリア」
ライオネルは呟いて、アメリアの身体を地面にゆっくりと横たえた。
そうして初めて、その傍らに倒れている少年に目をやった。
「この子がスリを……? まだ子供じゃないか」
――それに……。
少年の太ももに突き刺さっている銀色の髪飾り。
それがアメリアのものだということに、ライオネルはすぐに気が付いた。なぜなら先ほど逃げていった男の背中に刺さっていたものも同じであったからだ。
ライオネルは考える。
これはアメリアの精一杯の抵抗だったのだろうか。あるいは、意図的に用意していたものなのか……。どちらにせよ、少し調べてみる必要がありそうだ。