【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

「…………」

 ライオネルは髪飾りをコートの内ポケットにしまい込むと、アメリアの横に跪く。

 そして、眠ったままのアメリアの頬に、そっと指先を触れた。

「ねぇ、君はどうしてこんなものを持っているの? あの日、君はどうして川に落ちたの?」

 返事がないことを知りながら、それでも尋ねずにはいられない。

 その表情はあまりに切なげで――けれど、彼は自身がそんな顔をしていることに気付いていない。

「ごめんね。僕、約束を破っちゃったんだ」

 ライオネルの脳裏に浮かぶ、ウィリアムの顔。

 二ヵ月前の事件の後、ライオネルはいけないとわかっていながら、ウィリアムについてこっそり調べていた。

 そして判明したこと。それは、ファルマス伯爵ウィリアム・セシルには、悪い噂がただの一つも無いということだった。

 家柄も人柄も完璧で、頭脳明晰、非の打ち所がない。皆、口を揃えて彼を褒め称えるのだ。

 だが普通ならそんなことはあり得ない。いくら相手が侯爵家の人間であろうと、人間誰しも欠点の一つや二つあるものだ。むしろ爵位が上がれば上がるほど、妬みや嫉妬は受けやすくなる。それなのに貴族からも使用人からも、そして領民からも、ウィリアムを褒める言葉以外出なかったのである。

 ライオネルはその事実に困惑した。ウィリアムの人柄がいいとは、どうしても思えなかったからだ。

 ライオネルがウィリアムと対面したとき抱いたのは、好印象とは程遠いものだった。プライドが高く感情的な人物である、と――。

 だから余計に、ウィリアムに対する皆の評価を気持ち悪く思った。

 それはアメリアに対しても同じであった。
 アメリアの噂は、思わず耳を塞ぎたくなるほど酷いものだった。誰もがアメリアを悪女だと罵った。人の心を持たない魔女のような女だと悪《あ》し様《ざま》に言った。。

 その上で、最後には付け足したようにこう言うのだ。〝ですが彼女も最近はお変わりになられたようだ。ファルマス伯爵が彼女の心を変えたのでしょう〟――と。

< 78 / 121 >

この作品をシェア

pagetop