【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
「…………」
ライオネルは髪飾りをコートの内ポケットにしまい込むと、アメリアの横に跪く。
そして、眠ったままのアメリアの頬に、そっと指先を触れた。
「ねぇ、君はどうしてこんなものを持っているの? あの日、君はどうして川に落ちたの?」
返事がないことを知りながら、それでも尋ねずにはいられない。
その表情はあまりに切なげで――けれど、彼は自身がそんな顔をしていることに気付いていない。
「ごめんね。僕、約束を破っちゃったんだ」
ライオネルの脳裏に浮かぶ、ウィリアムの顔。
二ヵ月前の事件の後、ライオネルはいけないとわかっていながら、ウィリアムについてこっそり調べていた。
そして判明したこと。それは、ファルマス伯爵ウィリアム・セシルには、悪い噂がただの一つも無いということだった。
家柄も人柄も完璧で、頭脳明晰、非の打ち所がない。皆、口を揃えて彼を褒め称えるのだ。
だが普通ならそんなことはあり得ない。いくら相手が侯爵家の人間であろうと、人間誰しも欠点の一つや二つあるものだ。むしろ爵位が上がれば上がるほど、妬みや嫉妬は受けやすくなる。それなのに貴族からも使用人からも、そして領民からも、ウィリアムを褒める言葉以外出なかったのである。
ライオネルはその事実に困惑した。ウィリアムの人柄がいいとは、どうしても思えなかったからだ。
ライオネルがウィリアムと対面したとき抱いたのは、好印象とは程遠いものだった。プライドが高く感情的な人物である、と――。
だから余計に、ウィリアムに対する皆の評価を気持ち悪く思った。
それはアメリアに対しても同じであった。
アメリアの噂は、思わず耳を塞ぎたくなるほど酷いものだった。誰もがアメリアを悪女だと罵った。人の心を持たない魔女のような女だと悪《あ》し様《ざま》に言った。。
その上で、最後には付け足したようにこう言うのだ。〝ですが彼女も最近はお変わりになられたようだ。ファルマス伯爵が彼女の心を変えたのでしょう〟――と。