【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
――先の尖った髪飾り。それを所持していた理由について、彼は問わねばならなかった。
いったい君はどうしてこんなものを持っているのかと。普段から、こんな危険なものを持ち歩いているのかと。その理由はいったい何なのかと。
けれど、それより先にアメリアのし始めたことを目の当たりにし、絶句する。
「何を……しているの……?」
なんとアメリアは、どこからともなく取り出した手鏡で自分の首の痣を映し、痣の上に白粉《おしろい》を塗り始めたのだ。
「痕を……隠して……?」
こんなの――普通じゃない。
ライオネルは今度こそ確信した。
アメリア・サウスウェルという女性は、ただの令嬢ではないのだと。
首を絞められ殺されかけたにもかかわらず、涙一つ流さない。それどころか、その事実を無かったことにしようとしている。普通の人間なら絶対に取らない行動だ。――だが、いったい何のために。
ライオネルにはわからなかった。どうしてそんなことをする必要があるのか。アメリアが何を考えているのか。その全てに見当がつかず、ただ困惑するほかない。
アメリアはライオネルのことなど気に止めず、首の痣を綺麗に消し去る。
そして横たわる少年――ニックに目を向けた。
彼女は、太ももに髪飾りが刺さっていないことを見るやいなや、手帳とペンを取り出し何かを書き綴る。それを、ライオネルの眼前に突き出した。
そこには「何も見なかったことにして、ここから立ち去ってほしい」と書かれていた。
ライオネルは混乱する。
「……どうして? この子は人のものを盗んだ。確かにまだ子供だけど、警備隊に引き渡さなきゃいけないよ。それに、君を保護するのも僕の役目なんだ。それをまさか見なかったことにして立ち去るなんて、そんなことできるわけないじゃないか」
『なら、私も一緒に捕まえるのね。だって、この子をこんな風にしてしまったのは私なの。それに、私はこの子に怪我を負わせた。この子の足に刺さっていたでしょう? あれは私の髪飾りよ』
「……君は……いったい……」
ライオネルを見つめるアメリアの瞳――それは怖いほどに冷静で、彼はますますわからなくなった。アメリアという存在が――。