【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
6.アメリアの秘密
それから少しの時間が経った。
その間、ライオネルは路地裏から身を出して、自分以外の騎士や兵士の姿を探していた。
けれど付近には騎士どころか人っ子一人現れる気配がない。
――どうしよう。本当なら仲間を呼びに行きたいところだけど、彼女をこの少年と二人きりで置いていくわけにもいかないし……。かと言って、彼女だけを連れてここを離れるというわけにも……。
今のライオネルには二つの任務が課せられていた。一つは、路地裏に迷い込んだ貴族令嬢――つまりアメリアを保護すること。そしてもう一つは、貴族令嬢の事件に関わった者を捕らえることだ。
彼は少し考えて、アメリアの方を振り向く。
こうなれば、アメリアには自分の足で歩いてもらうしかない。
「君、気分はどう? 僕はこの少年を背負うから、君は自分の足で歩いてもらえると……」
そう言いかけて、気が付いた。
さっきまで無かったはずの気配が近づいてくる。――二人分の足音だ。
ライオネルは再び路地から顔を出す。
すると、向こうから駆けてくる二つの人影。それは確かに見覚えのある二人だった。
「あれは……」
ライオネルは呟いて、けれどすぐに口を閉ざす。
自分の横に立つアメリアの表情が、一瞬のうちに変わったからだ。
ウィリアムの姿を見つけたアメリアの横顔が、さっきまでの彼女とまるで違っていることに気付いてしまったから――。
「――アメリア!」
ウィリアムの硬く緊張した、けれど同時に、深い安堵を秘めた声。
以前の彼とは明らかに違う、心に響くような声。――同時に走り出す、アメリアの姿。
「……あ」
アメリアはライオネルに見向きもせず、その横を駆け抜ける。
彼女の背中が遠ざかる。――その数秒後には、しっかりとお互いを抱きしめ合う、アメリアとウィリアム。
それは傍から見れば当然の光景で。何の疑いようもない景色で。
けれどどういうわけか、ライオネルは目の前の光景に酷い違和感を覚えた。
「…………」
――何だろう、変な気分だ。
ウィリアムに抱きしめられるアメリア。――それを見ていると、何かが喉からせり上がってくるような、妙な感覚に襲われる。