【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

 ここは確かに変わった。あの頃と違い、皆僕の目を見て話してくれるようになった。笑顔を向けてくれるようになった。ここにはもう誰一人として、僕のこの力を知る者はいない。この僕の右目の本当の色を、知る者は誰もいない。
 それでも、僕は周りを信用することができないでいた。

 心を読もうとすれば、聞こうと思えばすぐにでも頭に響く他人の声。けれどもしそれが、またあの頃のように僕を恐れ、蔑む声だったら――そう思うと、途端に足が竦んで動けなくなってしまう。誰の声も、もう二度と聞きたくないと、耳を塞いでしまうのだ。

 そんな僕が信用できるのはヘンリーただ一人。それなのに、彼と会えなくなるなんて……。


「アーサー、なんて顔してるんだ」
「……ごめん」
「ははっ、謝るのかよ! いいって、むしろ嬉しいし」
「――!」

 ヘンリーは屈託のない顔で笑う。

「心配するな。十二月にはクリスマス休暇があるし、三ヵ月なんてすぐだ。そうだろう?」

 そう言ったヘンリーの顔に迷いはなくて、彼にとっての三ヵ月と、僕にとってのそれがいかに違うのか、まざまざと思い知らされる。

 ああ、きっとヘンリーは僕のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。こんなに人が良くて明るい彼だ。新しい友人ができて、こんな僕のことなど、思い出しもしなくなる。
 そう考えたら、思わず泣き出しそうになった。叫び出しそうになった。

 でも僕は、それを必死に押しとどめる。ヘンリーを困らせたくはない。だから僕は、精一杯……笑った。

「そう、だね。三ヵ月なんてすぐだよね。学校、頑張ってね」
「ありがとう、アーサー」

 僕の笑顔を見て、安心したように微笑むヘンリー。無邪気な……子供のような笑顔。

 それは眩しくて……あまりにも眩しすぎて、僕の(よど)んだ心に、暗い影を落としていった。
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