【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
いや、そんなはずはない。――ライオネルはそう思おうとした。
けれど否定しようとするほど、その感情が恋であると自覚させられる。自分はアメリアが好きなのだ、と。だからアメリアとウィリアムの仲睦まじい姿に、こんなにもイライラするのだと。
だが、だとしたらなぜルイスは自分をアメリアに近づけようとするのだろうか。アメリアには既にウィリアムがいるというのに――。
その疑問に答えるように、ルイスは立ち止まったまま動けないでいるライオネルの元へと戻る。そして、耳元でそっと囁いた。
「お二人の婚約は形式的なものなのです。――ですから……」
「……っ」
それは悪魔の囁きだった。決して手を伸ばしてはならない果実をもぎ取ってしまえと、そう言われているようだった。
けれど、だからこそ我に返る。
ルイスの意図がどうであれ、自分の行動の責任は自分で取らねばならない――そのことを、彼は日々の訓練からよく理解していたからだ。
「ルイス、君の言いたいことはわかった。――でも」
彼はゆっくりと息を吐き出し、ずり落ちかけているニックを背負い直す。
「僕には彼女が伯爵を愛しているように見える。それに形だけの婚約なんて、珍しくもなんともない。だからもし君の心配事が〝僕が秘密を漏らすこと〟だって言うのなら、そんなことは万に一つもないと誓う。だからそれで納めてくれないかな。僕は、こんな形で彼女の秘密を知ろうとは思わない」
ライオネルはきっぱりと言い切って、ルイスに髪飾りを差し出す。
「僕は前に君に言ったよね? 何かあれば君たちを助けるつもりでいるって。覚えてる?」
「……ええ。それは、もちろん」
「僕、本当にそのつもりでいたんだ。……ごめん。僕、勝手に彼女のことや伯爵のことを調べさせてもらったんだ。だから多分、君が思うより彼女のことを知ってる。彼女が噂のような子じゃないってことも、何か事情があるんだろうってことも、何となくわかってる」
「……それで?」
「だから、次に彼女に会えたら言おうと思ってたんだ。伯爵には全て忘れろと言われたけど、そんなのは無理だって。君のことが心配だから、忘れるなんてできないって。僕には何の力もないけど、でも……」
「つまり、愛の告白でもなさるおつもりだったと?」
「違う! そういうんじゃない! そもそも僕は、彼女に恋をしている自覚なんてなかった。身分だって違うし、本当にそんなつもりはないんだよ」
「では、友人の申し出でもなさるおつもりだったのですか?」
「……っ」
――問われて気付く。自分はいったい彼女の何になりたかったのかと。
恋人ではない。だが友人になれるはずもない。――ならば、いったい何に……?