【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
「僕は――そう。多分……彼女の、騎士に……」
「――騎士?」
「……あっ、――いや、ただの理想だよ。そんなの叶いっこないってわかってる。僕はまだ見習いで、彼女を守れるような実力もない。代々仕えてる家系があるし……彼女が受け入れてくれるとも思えない。……でも……もしいつか主人を選ぶなら……自分で選ぶことができるのなら、彼女がいいなって……そう思っただけなんだ」
それは現実的に考えて、とても叶うはずのない願い。
そもそも、いまどき一人の主人に忠誠を誓う騎士はごく少数だ。その理由は、一昔前と比べ、騎士そのものの存在価値が無くなってしまったことにある。
平和な世が訪れるとともに騎士文化は廃れ、形骸化され、やることといえば主人の身辺警護をする程度のもの。日雇いでも十分に役目を果たせるくらいの仕事しかない。
そのため騎士を置くのは財力のある上級貴族のみである上、財政悪化からある日突然暇を出され、街に働きに出る者も珍しくない。
だが幸い、ライオネルの家系は代々アルデバラン公爵家に仕えている。父親が称号を授かっていることもあり、将来に不安はない。
それなのに、ライオネルはアメリアに仕えたいという。――その真摯な眼差しは、紛れもない彼自身の本心に見えた。
「――なるほど。それも悪くないかもしれません」
不意にルイスが微笑んだ。
そのどこか暗い笑みに、ライオネルは困惑する。
「……え? 悪くないって、何が……」
「騎士というのも、悪くないと言ったのです」
「それって、どういう……」
「私があなたをあの方の騎士に推薦して差し上げましょう。――その代わり、私の願いを一つ聞いていただきたいのです」
「願い? 君の……?」
訝し気に眉を寄せるライオネルに、ルイスは笑みを深くする。
そして信じられないようなことを言い放った。
「あなたには今日から、その背中の子供の主人になっていただきます」――と。