【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
第4章 心の在り処

1.失くした心


 日も入りかけた頃、ウィリアムはルイスの部屋を訪れた。

「ルイス、入るぞ」――そう声をかけドアを開けると、ベッドに腰を下ろしたルイスが気だるげな瞳でこちらを見ていた。


「悪い、遅くなった」

 ウィリアムはドアを閉める。そして、ゆっくりと部屋の中を見回した。


 この部屋はずっと変わらない。ルイスがやってきた十五年前から、まるで時が止まっているかのようだ。必要最低限しかない家具も、地味な色のカーテンも、本棚に整然と並べられた本一冊に至るまで、全てが――。

 ウィリアムは代わり映えしない殺風景な部屋を眺め、せめてソファくらい置いたらどうなんだと呑気なことを考える。――すると同時に、ルイスが小さく息をついた。

「ソファなど不要です。ここには人を入れませんから。ご存じでしょう?」

 それはまさしくウィリアムの感情を読み取ったかのような反応だった。
 けれどウィリアムは驚かない。彼にとって、そのルイスの反応は当然のことだからだ。

「だが不便だろう? 本を読むにもソファの一つくらいあった方がいいと思うが」
「いいんです。テーブルと椅子で事足りますから」
「そうか? まぁお前がいいならいいんだが……それで、俺はどこに座ればいい?」
「何を今さら。僕の隣に決まってるでしょう」
「…………」

 ――ああ、そういえばそうだった。あまりに久しぶりで忘れていたが、俺はいつもベッドに座っていたんだった。

 ウィリアムはそんな顔をして、ルイスの隣に腰を下ろす。
 すると、ルイスは再びため息をついた。

「――にしても、ずいぶん長かったですね、ハンナのお説教は」
「ああ……まぁな」

 ――そう。ウィリアムはつい先ほどまで、ハンナから一時間もの間絞られていたのだ。一度ならず二度までもお嬢様を危険に晒すとは何事か――と。
 ウィリアムはハンナの怒りの形相を思い出し、はあ――と深いため息をつく。

「気付いていたなら止めに入ってくれれば……」
「なぜです? あなたがちゃんとアメリア様を掴まえておけばあのようなことにはならなかったのですよ。叱られて当然でしょう」
「お前もハンナと同じことを言うんだな」

 自分を責めるようにこちらを流し見るルイスの瞳。その視線の居心地の悪さに、ウィリアムは視線を泳がせる。
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