【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

「……悪かった。ここ最近の彼女は大人しくて、すっかり油断していたのは事実だ。声を出せない彼女のことをもっとよく見ておかなければならなかった。……反省してる」
「そうですか。まぁでも、一番に悪いのはあなたではありませんから。それに油断していたのは僕も同じ。あなたを責める権利はありませんよ」
「そうか? ――にしても、今日はいったいどうした。お前、やっぱり顔色が悪いぞ」

 ウィリアムはルイスの顔を覗き込む。
 昼間も感じたことだが、今日のルイスは体調が悪そうなのだ。

 もともと色白のルイスだが、今の顔色は蒼白に近い。
 それに、いつもなら必ずクローゼットにしまっているはずのジャケットやベストが、ベッドに脱ぎ散らかされたままになっている。シーツに皺ができているのは、おそらくウィリアムが部屋に来るまで横になっていたからだろう。

 極めつけは首元のボタン。普段は決して人に肌をさらすことのないルイスが、シャツのボタンを上から二つも外しているのだ。

 それは付き合いの長いウィリアムですら覚えのない、隙だらけなルイスの姿だった。

「街では怪我はしていないと言ったな。ならどこか悪いのか? 力を使いすぎたと言ったが……本当にそれだけか?」

 ウィリアムは尋ねる。が、ルイスは首を横に振った。

「ご心配には及びません。本当に疲れただけですから。あなたのせいでずいぶん走らされましたしね」
「それは悪かったと思ってる。だが走っただけでそんな風にはならないだろう。もしそれが本当なら、やはりどこか悪いということだ。一度診てもらったほうがいい」
「いえ、本当に大丈夫ですから……」

 ルイスは断るが、青白い顔で言われても全く説得力がない。――ウィリアムは眉をひそめる。

「お前、まさかまだ医者が怖いのか?」
「え……なぜです?」
「昔から、診察のとき意地でも脱がなかっただろう。最初は白い肌を見られたくないのかと思っていたが、俺がお前に紅茶をかけて火傷させてしまったときも、お前は頑なに脱ぐのを嫌がった。だからお前は医者嫌いなのだと思っていたんだが……違うのか?」
「なるほど。あなたにしてはいい推理です」
「俺にしては、は余計だ。俺はお前を心配してるんだぞ」
「わかっていますよ。――にしても、そんなに昔のことをよく覚えていますね」
「そりゃあ覚えてるさ。俺にはお前しかいなかった。俺のことを理解してくれるのは……他でもない、ルイス、お前だけだったんだ。それはお前自身が一番よくわかっているだろう?」
「……ええ、そうですね」
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