【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
ルイスの瞳に揺れる悲哀。それがウィリアムの冷え切った心を溶かしていく。――否、欠けた心を補完していくと言った方が正しいのかもしれない。
「ウィリアム様」
呟いて、ルイスは慈しむようにウィリアムの右手を取った。
すると同時に、ウィリアムの中に流れ込む――熱い何か。
「――ッ」
十数年ぶりのその感覚に、ウィリアムの顔が歪んだ。
けれどルイスは決して手を離さない。ウィリアムも、ルイスの手を撥ねのけようとはしなかった。
それはルイスから流れ込むソレの懐かしさへのせいなのか。もしくはルイスへの誠意だったのか……彼自身にもわからない気持ちであった。
ルイスはしばらくの間ウィリアムの右手を掴んで放さなかったが、自分の中からソレが全て消え去ったタイミングで、そっと手を下ろす。
「さぁ、これで全ては元どおり。僕があなたの心を読むことはできなくなった。もうその心はあなただけのもの。――ウィリアム様、十五年前に僕らが交わした契約は、今この時を持って終了しました。自由に、生きてくださいね」
「……っ」
ルイスの切なげな瞳。――その表情に、ウィリアムは今にもルイスが消えてしまうのではないかという思いに駆られた。
あり得ない話ではない。なぜならルイスは、契約は終了したと、そう言ったのだから。
だが、急に言われても納得できるわけがない。
ウィリアムはルイスの右手を掴み、握りしめる。
「ルイス! 俺はお前を手放すつもりはない。俺がいいと言うまでここにいろ。彼女の――アメリアの幸せを、その目で最後まで見届けろ。これは命令だ」
するとルイスは驚いたように瞼を震わせ――けれどすぐに、微笑んだ。
「では、お言葉に甘えてそうさせていただきます。あなた方の魂が結ばれるそのときまで、ご厄介になることに致しましょう」
夕暮れ時、窓から差し込む夕日のみが二人の姿を眩しく照らす。
そんな中、二人はしばらくの間、お互いを見つめ合っていた。