first date
しばらくしたのち、彼は会計のときにお札と一緒に紙ナプキンを私に手渡した。
「『T駅東口時計の下 10時 ヤスヒコ』…?」
「『安彦』って書いて『アビコ』」
「アビコ先生…」
「君まで『先生』なんて呼ぶのやめてよ。君は藤枝絢ちゃんだよね」
「なんで私の名前を…」
「名札に書いてあるもん。マスターもさっき絢ちゃんって呼んでたし」
「あ、そっか」
「じゃ、明日よろしく」
彼はなぜかキリリとした凛々しい顔で、軽く敬礼のポーズをとった。デートの約束とは思えない表情に思わず笑ってしまった。それはそうか、小説を書くための資料作りみたいなものだもの。
「はい、よろしくお願いします」
彼はニコッと笑って店を出て行った。
仕事が終わり、家に帰ってからズボンのポケット入れていた彼からのメモを広げた。
『T駅東口時計の下 10時 安彦』
そう言えば、連絡先を教えてもらっていない。連絡先は書かずに場所と時間を指定するだけなんて、ちょっと不安な気もする。
そもそも25年間生きてきて男の人とデートするという経験自体がない。デートのためのおしゃれな服も化粧品もない。しょうがないか。急に決まったことだし、本当のデートでもないし。私はシャワーを浴びて早々と眠りに就いた。
「『T駅東口時計の下 10時 ヤスヒコ』…?」
「『安彦』って書いて『アビコ』」
「アビコ先生…」
「君まで『先生』なんて呼ぶのやめてよ。君は藤枝絢ちゃんだよね」
「なんで私の名前を…」
「名札に書いてあるもん。マスターもさっき絢ちゃんって呼んでたし」
「あ、そっか」
「じゃ、明日よろしく」
彼はなぜかキリリとした凛々しい顔で、軽く敬礼のポーズをとった。デートの約束とは思えない表情に思わず笑ってしまった。それはそうか、小説を書くための資料作りみたいなものだもの。
「はい、よろしくお願いします」
彼はニコッと笑って店を出て行った。
仕事が終わり、家に帰ってからズボンのポケット入れていた彼からのメモを広げた。
『T駅東口時計の下 10時 安彦』
そう言えば、連絡先を教えてもらっていない。連絡先は書かずに場所と時間を指定するだけなんて、ちょっと不安な気もする。
そもそも25年間生きてきて男の人とデートするという経験自体がない。デートのためのおしゃれな服も化粧品もない。しょうがないか。急に決まったことだし、本当のデートでもないし。私はシャワーを浴びて早々と眠りに就いた。