一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの

悪夢

 高級住宅街、南青山。
 豪邸が建ち並ぶなか、(みなもと)葉月(はづき)は真っ白な一軒家の敷地に入っていった。ハウスキーパーによって手入れされた花壇には大輪の薔薇が咲き誇り、一輪一輪が強い香りを放っている。

「ただいま」

 施錠された玄関ドアに鍵をかざしてパスワードを入力し、葉月はドアを開けた。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 玄関の奥では、トレイを持った家政婦があわただしく歩いている。葉月が声をかけると家政婦は足をとめ、葉月に対し頭を下げた。しかしその表情は何かに動揺しているようで、葉月は違和感を覚える。

「そのお水は、なあに?」
「奥様が召し上がりたいとおっしゃいましたので、お持ちしました」
「あら、お母様はもう帰ってきているの? ちょうど良かったわ。文化祭の主役に決まったって、早く話したかったの!」
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