一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
「可能な限り家事をお願いします。あちこち飛び回っているので見ての通り自宅はほとんど利用していませんが、家にいるときは料理、洗濯、掃除を頼みます」

 そう言って秀はダイニングチェアに腰かけた。リラックスするようにため息をついてネクタイを緩める。
 が、ちょっと待て。
 葉月は理解が追い付いていない。

「えっと、それはどういう事? 勤務時間とか勤務形態がよくわからないのだけど、私はオフィスで働いたあとにあなたの家でも働くってわけ? 正気?」

 秘書という者は家政婦みたいな事までするのだろうか。しかも明らかに拘束時間が長い。奴隷契約もいいところだ。
 秀はダイニングテーブルに肘をついて葉月を見上げた。

「大丈夫だと思いますよ。源さんの日常生活のついでに俺の分もやってくれれば良いだけですから」
「私の? どういう事?」

 わけもわからず立ちつくす葉月に、秀はさも当然といった様子で説明する。

「ですから、源さんには俺の自宅で生活してもらうという話です。源さんだって自分の食事や洗濯をするでしょう? そのついでに俺の分も頼みます。もちろん給与は払います。時間外手当付きでね」

 勝手すぎる話に、葉月は開いた口が塞がらなかった。
< 15 / 61 >

この作品をシェア

pagetop