一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
 葉月は秀の視線から逃げて、そのままドラッグストアを飛び出した。

(好きだって言うなら、なんであんなこと……)

 けれど葉月は行く当てもなければお金の持ち合わせもなく、ドラッグストアの数十メートル詐欺で立ち尽くしてしまう。
 夜だというのに、建物の明かりは煌々と葉月を照らした。眩しくて、暗い。都会の空は葉月の心と同じくらいぐちゃぐちゃだ。

「源さん!」

 しばらくして葉月は後ろから声をかけられた。ビニール袋のこすれる音が葉月の隣で止まる。

「気に障りましたか」

 秀の声に覇気がない。葉月が横目で見た秀は、少しうなだれていた。

(やめてよ、あんな事をしておいて)

 ギリギリと唇を噛む。悔やむなら買収などしないで欲しかった。好きだと言うのなら、葉月の家族を守ってほしかった。

「上屋敷くん、私を想っていたと言うのなら、なぜあんな買収をしたの」

 葉月はモヤモヤを吐き出すように問いかける。

「あなたのした買収は、ミナモトコーポレーションを潰すためのものだったって聞いたわ」

 それは意図的に葉月たちを攻撃したのと同義だ。
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