一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
 本当に葉月に対する情があったのなら、そのような事はしないのではないか。葉月にはそう思えた。

 けれど秀は実行した。
 高校生という若い身分で。
 取締役に就任したばかりの時期に。

 大人をもてあそぶ傲慢で最悪な子どものいたずらみたいに、葉月を傷付けたのは秀なのだ。
 葉月は秀に視線を送り続ける。秀の視線は一向に葉月をとらえない。

「すみません。それが最善だと思ったのです」

 秀は苦しそうに絞り出した。
 吐き出た彼の言葉が葉月の身体の力を奪う。

(……ああ、そうか。上屋敷くんは自分の利益しか考えてないんだ)

 それに気付いて、葉月は色々と馬鹿らしくなってしまった。

(彼の言う『好き』だって、しょせん会社に負ける程度の感情なんでしょ)

 葉月が苦しむとわかっていても、秀は会社にとっての最善を追求する。それが仕事だから。大企業の重役だから。
 ……馬鹿らしい。

(もういいや)

 葉月はぐちゃぐちゃな心に蓋をする。

(お金さえ貰えれば、それで良い)

 諦めるのは慣れっこだ。今までだって全て割り切って生きてきたのだ。これからだってそう。ただそれだけ。
 葉月はすべてを無理矢理割り切り、夜道を歩きだす。
 葉月の後ろでは、秀はまだうつむきがちに立ち止まっていた。

「源さんを救うには、それしかなかったんです」

 秀がそう呟いたことに、葉月は気付かなかった。
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