一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
 しばしの沈黙のあと、ため息と共に秀が「座ってください」とソファーをポンポン叩いた。葉月は首を横に振る。

「駄目だよ。明日も早いんだから、もう寝なきゃ」
「少し話し相手になってくれたらすぐに寝ます。少しだけ、駄目ですか?」

 甘えるように上目遣いで言われたら、葉月は駄目と言えなかった。彼の隣に座る。秀は愛おしそうに葉月を見つめた。

「学生時代のことを思い出しました。変わらないですよね、源さんは」
「……なんの話?」

 無防備なほど表情を緩める秀に対し、葉月が問いかける。秀は葉月を優しく見つめながら言った。

「俺が好きになった源さんのままだなと思ったのです。学生時代も源さんは周りをよく見ていて、他人を気遣い、俺に対しても優しく声をかけてくれました」
「そうだっけ」
「そうです。俺は小さな頃から学業以外にも、経済、経営、コミュニケーション、その他諸々の勉強をさせられていたので、学校では常にぐったりしていたんです。そんなとき源さんは決まって俺を気遣ってくれて、かなり助けられました」

 言われてみればそうだった。
 幼い頃の秀は病弱で、頻繁に具合を悪くしていた印象だ。そんな秀のために葉月は授業のノートを見せたり、体調を気遣ったりしていた。

「源さんのその優しさは、俺の救いです」

 目を細めた秀の顔が葉月に近づいてくる。
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