一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
 机の上や床に、母が大事にしていた指輪やネックレスが散乱している。少し後ろを歩いていた家政婦が机の上に水を置いて、散らかったアクセサリーを片づけ始めた。母はうつむいたまま何も言わないが、動揺を見せない家政婦ならば、一体何がどうしてこのような状況になっているのか知っているかもしれない。

「ねえ、これはどういう……」

 葉月が質問しようとしたところで、バタバタと大きな足音と共にリビングのドアが大きく開いた。その先には今にも倒れそうなほど顔色の悪い父が見たこともない表情で立っている。

「終わりだ」

 父が言う。

「もうすべて終わりだ。何もかも。すべて」

 真っ白な父の顔。葉月は唾を飲み込んだ。

「お父様? どうしたのですか。終わりとはどういう……」

 腫れ物に触れるように尋ねる葉月に向かって、父は目を見開いた。

「葉月、我がミナモトコーポレーションは倒産した」
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