一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
「お父様……」

 きょろきょろしていた入り口の男性が葉月たちに気付いたのと同時に、葉月は呟いた。
 そこに居たのは紛れもなく葉月の父だ。5年以上会っていなかった父。久しぶりにあった父はかなり痩せ、しわも深くなっている。けれど、凛々しい顔つきは変わっていない。

「お父様!」
「葉月」

 葉月たちのテーブルにやってきた父は、葉月を見て目に涙を浮かべた。年季の入ったパンツを履き、よれたシャツを着た父。その姿に昔の優雅さは微塵も感じられない。落ちぶれてしまった父の姿が葉月の胸に突き刺さる。

「元気だったか、葉月」
「はい。お父様もお元気ですか」
「葉月、『お父様』はやめてくれないか。若造にこき使われているようなジジイだ。もう敬われるような人間じゃあない」

 威厳なく自虐する父が痛々しい。葉月が何も言えずにいると、秀は「座りましょう」と促した。椅子に腰かけた父が口を開く。

「上屋敷専務、よく私の居場所がわかりましたね。それで、話とはなんですか」

 父の問いに、秀は穏やかな笑みを浮かべて言った。

「源さん、単刀直入に言います。弊社で働きませんか」
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