一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
 買収も倒産も、会社経営の中では極々自然な出来事だ。秀の胸の内にあったのは源家に対する悪意ではなく、自社の純粋な経済成長を望む、会社役員としての正しい判断である。

(だから上屋敷くんを責めることも恨むことも、お門違いなんだよね、本当は)

 だが無知な葉月は秀を恨み、責め続けた。秀にとってはそれこそ理不尽な出来事だっただろう。それでも秀は葉月を受け入れ、仕事を与え、家に住まわせ、罪滅ぼしのような事を続けている。

「ありがとう、上屋敷くん。そして、ごめんなさい」

 葉月は今までの無礼を詫びた。自分のことばかり考えていた葉月と違って、秀は常に周りを見て、周りのために決断し行動している。
 そう、彼は悪くなかったのだ。
 彼のそばで彼を見つめ、彼の働きぶりをみて、ようやく葉月もその事実に気付けた。

「上屋敷くんは凄いと思う、本当に。本当に、ごめんなさい」
「源さん、謝るのは俺の方です。すみませんでした。あなたを傷付けたくなかった。本当に申し訳ありません」
「謝らないで上屋敷くん。上屋敷くんはきちんと仕事をしていただけじゃない」

 そう言った葉月の肩に秀の両腕が回る。
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