一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
 広いリビングに父の震えた声が響く。

「……え?」
「ミナモトコーポレーションは終わったのだ。会社も、仕事も、財産も、何もかも無くなった。終わったんだよ」

 何を言っているのか理解できず、葉月は(ほう)けたまま母に目を向けた。母は相変わらず頭を抱えたままうつむいている。家政婦も驚く様子はない。二人ともこの衝撃的すぎる事実を知っていたのだろう。

「この家もすぐに差し押さえられる。出ていく準備をするんだ、葉月」

 顔をそむけて言った父に、葉月は思わずしがみついた。

「ま、待ってください! 出ていくってどういう事ですか! どこで暮らすのですか?! 学校……学校はどうなるの? 私、主役になったんです。文化祭で主役をつとめるんですよ!」

 幼稚園から高3までずっと主役をつとめた人は未だかつていない。葉月が史上初なのだ。そんな名誉なことを無下にするわけにはいかない。
 けれど、うつむいているばかりだった母が葉月を見上げ、投げやりに吐き捨てた。
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